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何冊かの本の僕なりの書評
荻本医院のブログ
トピックス

2020.10.06 NEW!

今回アップするのは、
①Autour de l’œuvre d’André Green - Enjeux pour une psychanalyse contmporaineというタイトルの本のなかのGilbert Diatkineという人の書いた論文「フロイト、ラカン、グリーンそして言語(ランガージュ)」の前半部分、フロイトとラカン(批判)の部分️。
②新たな試みとして(かなり偏向的と思われても仕方がないですが)「何冊かの本の僕なりの書評」️です。ADHDについては、英文で書かれたもの、仏文で書かれたものをひとつづつ取り上げました。

今シコシコと翻訳しているのは、Rolf Nemitzというドイツ人でラカン研究家(URL : https://lacan-entziffern.de/ueber/)のVorstellungsrepräsentanzの項目です。ドイツ人らしく、やっていることが丁寧ですが、フランスのラカ二アンのあいだでかれのことを論じているのは皆無ではないでしょうか。少なくとも、フロイトについてはドイツ人ですからフロイトのドイツ語についてもフランス人よりよくわかっているはず。Vorstellungsrepräsentanzはラカンが自分のシニフィアンに最も近いフロイトの用語だとしています。日本語訳はラプランシュとポンタリスの『精神分析用語辞典』に従えば、「表象代表」あるいは「表象代理」ですが、これでいいのか、ラプランシュとポンタリスの記述に誤りはないのか、そのうち判ります。

何冊かの本の僕なりの書評

フロイト、ラカン、グリーンそして言語
 (原題 Freud, Lacan, Green et le Langage, «Autour de l’œuvre d’André Green»所収、
 p.259-286), Gilbert Diatkine


2020.06.18

試訳、アンドレ・グリーンとの対談 - 精神分析の緑化運動

『アンドレ・グリーンとの対話 - 精神分析の緑化運動』について

Verbier de l’homme aux loups試訳

Verbier de l’homme aux loups試訳について

をアップしました。


2020.02.20

イリーナとの対談

la Verleugnung(否認)の試訳

拙訳 la Verleugnung についての論文に関して

をアップしました。


2019.06.04

最近遺伝学、特にエピジェネティックス関連の研究に興味を持つようになりました。 精神科領域との関連でいうと、2年弱前、日本精神神経学会(2017年6月24日)における委員会シンポジウム「生物学的精神医学のフロンティア」におけるマウントサイナイ医科大学・精神科、森下博文氏の発表以来です。氏の研究はノックアウトマウスを用いてレット症候群等のモデル化に関するものでしたが、「エピジェネティックス」、「クリティカル・ピリオド」についての説明は勉強になりました。
先のGWで何冊かのエピジェネティックス関連のモノグラフィー(日本語、英語、フランス語で書かれた本)を読み、小生は研究とは縁がなくまったくの門外漢ですので、書評となるとおこがましくてできず、寸評を認(したた)めます。

①仲野 徹著『エピジェネティックス - 新しい生命像をえがく』(岩波新書) 、2014

多岐にわたる主題を丁寧にまとめた好書です。初学者にとっては読むのに根気を必要とします(その都度覚えなくてはならない新しい知識が連なっているからです)が、良き啓蒙書といえます。編集が優れているのは編集者の力量も関係しているのでしょうか。


②Peut-on se liberer de ses genes ? Ariane Giacobino, Stock, 2018

ビオグラフィックな体裁で、インターンでの精神科病棟での体験、セントラルドグマが支配的だった時代からエピジェネティックス(丁寧仕事である実験等基礎的な研究をかの女自身今も続けているのでしょうか)が勃興してきた時代をジュネーヴェ大学、同附属病院所属、肩書きは遺伝研究医師(臨床医としても働いていることが書かれていますが、他科に受診している患者さん等にエピジェネティックス関連の医療相談みたいなことをしている記述が多いです。例えば、夭折した子供の抜けた乳歯を持ってきた親がいて、これからクローン技術を駆使して、子供を再生してくれないか、などと無理難題を吹っかけられ、対応に苦慮した体験談など)として活動している人。1994年ヴァカンスで訪れたケイマン諸島でクレイグ・ヴェンターと数日を共にしたといったエピソードについても書いています(後のページでわたしの友人ヴェンターとあります)が、かの女はヴェンターではないので伝記的な記述はいただけない。ジャーナリスティックにもてはやされているのでしょう、YouTubeでもしばしば登場、(https://www.youtube.com/watch?v=1gQS4qf6Lv0, https://www.youtube.com/watch?v=lwfgC-VCJQc), (後者は21トリソミーに関するもので、「刷り込み」imprintingがエピジェネティックスと関連する事象ですが、そのことには触れていません)。本書では21番染色体上のNCAM2,TMPRSS2(こちらは酵素) について、かの女自身の研究報告がなされていますが、少なくとも21トリソミーのフェノタイプと相関する報告は皆無です。cf. http://atlasgeneticsoncology.org/Genes/GC_NCAM2.html, http://atlasgeneticsoncology.org/Genes/TMPRSS2ID42592ch21q22.html(1994年当時ですので、次世代シークエンサーはまだ誕生していません。サンガー法等を利用していたのでしょう)。 かの女自身なかなかhyperactiveです。DRD4の変異体のはなしがでてきます。冒険好き、新規なものを求めるひとがもつ遺伝子とされますが、ヴェンター(自称ADHDだとのことです)はこの変異体をもっていないと聞いて意外に思ったなどと書かれています。かの女自身はどうなのか。とにかく自らが関わったエピソードとか逸話、裏話などがが散見され、そこにトラウマとか奴隷の子孫について等々アクチュアルな問題に触れていますが、遺伝子や酵素の名前は出てはくるものの、肝心のエピジェネティクな複合的なメカニズムについての言及に乏しく、amazon fr. の読者のコメントは16人で総合評価は5つ星のうち4つ半ですが、小生でしたら2つかせいぜい3つしか与えません。臨床医としても⑥の著者であるBen Lynchさんの方をより評価します。


③ネッサ・キャリー著、中山潤一訳『エピジェニティクス革命 - 世代を超える遺伝子の記憶』丸善出版)、2015 《The Epigenetics Revolution - How Modern Biology is Rewriting Our Understanding of Genetics, Diesease and Inheritance, Nessa Carey, Icon Books Ltd, 2011》

①と同様、丁寧な語り口、専門用語についても解りやすく説明しています。①と重なる部分が多く、仲野 徹氏も①の執筆に際して本書を参考にしていたのではないでしょうか。


④Le gene - un concept en evolution, Seuil, 2012

本書も、筋道をきちんと立ててある程度専門的知識を門外漢にも伝えようと配慮する姿勢が窺える良書です。amazon fr. での読者のコメントは一人だけで、冗長すぎる、と5つ星のうち3つだけでしたが、専門書と啓蒙書との狭間に位置するような本では文章が説明的であり、専門用語を説明するには多少贅語的言い回しがあってしかるべき、と反論です ??? 小生でしたら星4つは与えたい(本当はもっと説明的であり、ということはより贅語的であればもっと初学者にとって理解しやすいと思います。もしそうだと210ページでは収まらない内容です)。本書は遺伝学全体について書かれているのであり、エピジェネティックスについての記述は一部分です。著者は、仲野氏と同様、エピジェネティックスはジェネティックスからのパラダイムチェンジなどではなく、あくまでジェネティックスの延長線上にあるものといった控えめな態度表明を行っています。日本人よりもフランス語圏の人の方がジャーナリスティックなマニフェステーション(ジャコビーノ女史のように)に弱いのでしょうか。なおエピジェネティック関連の数ページを「試訳」として認めました。(クリックで移動)コンパクトに纏まった文章でamazon fr. でのコメントとは裏腹に注釈が必要と思い、訳注を最小限度ですが加えました。


⑤小林 武彦著『DNAの98%は謎 - 生命の鍵を握る「非コードDNAとは何か」』、Blue Backs、講談社、2017

著者の専門領域であるnon coding DNAについての記述が主で、専門用語についての説明もやや不十分で初学者にとっては難解でしょうがこれらをネット上で検索し参照しながら読むと目から鱗です。読みやすさに関していえば、①と比べると編集者がどれだけコミットしているかで差が出ているように思えます。因みに『実験医学』増刊『ノンコーディングRNAテキストブック,Vol.33,No.20,2015の「序にかえて - ノンコーディングRNA研究の潮流を読み、そして乗るために」においてと題する巻頭言において塩見 美喜子氏はPubMedでの検索でnon-coding RNAに関する論文とmRNAに関する論文の比を年代別に比較しており、2005年、826報対3,681報なのが2014年では15,068報対26,622報と飛躍的に増えている事実を伝えています。DNAにしてもRNAにしてもnon-codingのものがジャンクではなくなってそれぞれの価値は上昇中にあるわけです。


⑥Dirty Genes - A breakthrough program to treat the root cause of illness and optimize your health, Ben Lynch, HarperOne, 2018


たまに英和辞典のお世話になる程度ですらすら読めます。サプリメントオタクの方たちには是非とも読んでいただきたい本です。dirty genesとはメタファーですが文字通りに訳した方がわかりやすく、「汚れた遺伝子」なのですがそれらをゴシゴシ洗い、きれいにすれば、ある種の病気には罹患しないで健康であり続けることが力説されています。
著者は医学部卒業後、細胞、分子生物学の研究をしていたが、その後naturaopathic physician自然療法医となり環境医学のスペシャリストとなる。そしてこのフィールドはエピジェネティックスと重なるのです。重要なことは、研究と並行して長年臨床医を務めていますので、患者さんの視線で物事を捉えている点でしょう。
遺伝子には数え切れない因子が影響し、その表現型が現れる、と簡単な書き出しから始めますが、かれが着目するのはSNPs(https://ja.wikipedia.org/wiki/一塩基多型参照してください)です。ヒトのゲノムのなかには100万以上のSNPsが存在し、ほどんどのものはさしたる害をもたらすことはありません。しかしながら細胞内酵素であるMTHFRあるいはCOMT内のSNPsは有害事象を引き起こす可能性があります。
これらふたつのSNPsにより発現するリスクがある障害、症状が列挙されます。
次いで、各人の遺伝的プロファイルについて書かれており第1部は終わります。
第2部では各人の洗濯物リスト(何回かに分けてクリーニングが必要とされます)、MTHFR, COMT以外の細胞内酵素DAO, MAO-A, GST, GPX, NOS, PEMTについての説明。第3部では実際の洗濯のやり方が書かれており、最初の2週間は水に浸してゴシゴシと汚れを取る作業、さらに必要な洗濯、最後の2週間はスポット状に残った頑固な汚れを落としてクリーニングで終了になります。詳細には触れませんが、例えばMTHFRは葉酸の代謝に関連する酵素です。わが国でも一部の良識ある産婦人科医が指摘していますが、妊婦が葉酸(サプリメントとしてネット上でも販売されています。「葉酸」でamazonにて検索してみてください!!!)を過剰に摂取し、未代謝の葉酸が蓄積されると、メチル化を阻害することから、生まれてくる子供に喘息発症リスクが有意に高くなります。必要なのは葉酸_塩であり、厚労省からして葉酸サプリメントの規制は講じていませんし、純粋な葉酸塩の商品化への認可も行っておりません。


Jean Deutsch, Le gene-Un concept en evolution, Seuil, 2012, p.155-158, 試訳(イタリックの部分は太字で示す)


染色体中のDNA : クロマチン

真核生物においてはDNAは、むき出しのまま存在するのではなく、タンパクと一体となっており、DNAプラス染色体内のタンパクのことを「クロマチン」と呼ぶ。DNA分子は硬く固まったものではなく柔軟な構造でできており、核のなかにおいては、ちょうど糸巻きによって巻かれたようなかたちで収まっている。この糸巻き様のものは特殊なタンパクでできておりヒストンでと呼ばれる。糸巻き様のヒストンとDNAによってヌクレオソームができている。このヌクレオソームも折りたたまれて染色体のなかに収まっている。ワトソンとクリックが描いた二重らせん構造をもつDNAの全長は数十センチ(約2メートルとの記述が大半である=訳者)にもなり、伸びたままでは10から100ミクロメートルの径しかない細胞内核にはとても収まりきれない。コンパクトに収まることからしてDNAもクロマチンも柔軟な構造をしていることになるが、その程度は細胞周期注1)を通じて変化する。有糸分裂や減数分裂時期においてコンパクトに纏まって形をなしている様が観察できるのであるが、他の時期においては、転写が優位なときほど弛緩していて不鮮明となる。
細菌においては、ヒストンが存在しないことから、DNAはもっと簡単に識別できる。ジャコブとモノーの描いたモデルに従えば、遺伝子の活動が、RNAポリメラーゼと、遺伝子領域においては近傍にあるプロモーターとオペレーター下で働く諸因子が直接関与している様を観察できるからである訳注2)。
真核細胞においては逆に、遺伝子の活動の制御は、クロマチンの作用によりはじめてDNAがRNAポリメラーゼやその他の転写因子と結びつくのが可能となるのである。直ちに明らかとなるのは、クロマチンの構造、その開閉の状態は、組織や発達段階に応じて変化することである。これとは別の制御機制がDNAに記載されているメッセージ訳注3)と転写のあいだにまたがっている。この制御機制は古典的遺伝学の制御機制を超えた≪au-dessus≫領域にあるものであり、この領域が「エピジェネティック」と呼ばれる領域なのである。遺伝子の機能的表現であるが、これがクロマチンが構造上重要な働きをしているためであることについては、例えば1940年代、異端の遺伝子学者であるリチャード・ゴールドシュミットが力説しているような遺伝子の転移訳注4)の影響による斑入りといった現象によっても証明されている。後にモルガンはこれは「遺伝子」ではなく染色体が遺伝の全体像を構成しているとまで言わせしめたのである。しかしながら1980年になってから漸く遺伝学者たちはこの現象に真剣にとり組むこととなるのである。
クロマチン構造由来の制御は、主として、ヒストンの翻訳後修飾(メチル化やアセチル化、リン酸化、ユビキチン化などの翻訳後のタンパク質の修飾=訳者)により成り立っている。真核生物におけるヒストンはその末端部においてヌクレオソームの糸巻き体からはみ出している部分がある。この延長部分(ヒストンテール)は20種ばかりのアミノ酸から構成されているだけなのだが、それぞれのアミノ酸はメチル化、リン酸化等の修飾を受けやすい。ヒストンの特定のアミノ酸の修飾とRNAポリメラーゼの状態と機能、例えばプロモーターとの結合の有無、転写が待機状態にあるのか、あるいは逆に開始、伸長へと至るか等々とのあいだには相関関係が成り立つ。ここからヒストンコードの問題へと話しが繋がり、これと関連してヒストン蛋白の修飾と転写あるいはそれと逆に転写の抑制さらには停止へと議論が発展する。これら修飾の問題とは別に、4つの主要型ヒストンとは異なるヒストンヴァリアント注5)にはゲノム上特異的にコーディングに関与する遺伝子があり、さらに多くの異なったのヌクレオゾーム結合様式ができる。
最後に、ヒストンではない別のタンパクがあり、これがクロマチンに結合し、その構築に関与する。これらのタンパクは機能的な面からふたつのグループに分類される。このことは最初ショウジョウバエで確認されたものであるが、すべての真核生物に存在し、ポリコ-ム群(Pc-G)とトリソラックスと呼ばれているものである。前者は転写を抑制化し、後者は促進する。ある種のタンパクを含む複合がヌクレオゾームの転移を引き起こす。これらをクロマチンリモデリング複合体と呼ぶ。またこれとは別の複合体では、転写に関与する一式であるRNAポリメラーゼとこれと結びついたタンパク群であり、より直接的に転写に預かる。


エピジェネティックな継承

クロマチンの構造上、当該する遺伝子の発現のためには「開」(促進として働く)と「閉」(抑制として働く)のふたつの状態を呈することが要請される。着目すべきは、この状態が有糸分裂、ときとして減数分裂に際して、さらには世代間を通じて継承される点にある。こうしてエピジェネティック継承という言い方ができるのであるし、このエピジェネティック関連の用語はエピジェネティックスに新たな意味を付与することになる。すなわち、エピジェネティックスの定義は、DNA配列の変化を伴わない有糸分裂と/ないし減数分裂を経由しての情報継承、と表される。
 私感によれば、このような定義に従う限り、エピジェネティックスは遺伝学の一分野にとどまることは明らかであるといえる。


エピジェネティック的メカニズム

既に述べたように、エピジェネティック的メカニズムのひとつとして、修飾されたヒストンとクロマチン非ヒストンタンパクの特異的結合によるクロマチンのいち形態の存在があった。エピジェネックス研究者たちはその他のメカニズムをも立証してきた。DNAそのもののメチル化である。実際、DNAの塩基、特にシトシンは、DNA複製ごにメチル化され得る。シストンのメチル化は特定の部位でなされる。複製に際して、DNA新鎖が合成されるが、もちろんシストンはここではメチル化されない。しかしながら何種類かの酵素は鋳型鎖のシストンがメチル化されていていながら新鎖がそうでない半-メチル化の部位を認識し、メチル化プロファイルを再現できるのである。このことはDNA配列の修正を伴わないあるシグナルの継承といえる。一般的に、これらDNA上のマークは減数分裂に際して消されるが、常に完全に消されるわけではない。既に指摘したが、ある遺伝子のメチル化の有無、そしてそれがプロモーター上で起こったか否かは、潜在的に転写が起こるかどうかという遺伝子の状態と係り合う。DNAのメチル化の痕跡から生じてくるシグナルは当該遺伝子の活動の変化として、それゆえ表現型(フェノタイプ)の変化として現れる。DNAのメチル化はDNAトランスフェラーゼという酵素によってなされ、この酵素によりメチル基が付されるし、このメチル基を除去する酵素もあり、こうしれメチル化は変化と統制が施される。DNAメチル化は突然変異ではない。DNA配列に変化が起こるのではないからである。しかしながら、遺伝子の活動の統制にあるシグナルが介入し、それは継承され、エピジェネティックな継承となる。
今日明らかになっていることは、ヒストン修飾とDNAメチル化とのあいだには相互作用が働いているということである。例えば、特定の部位でのDNAメチル化にはヒストンH3のテールの修飾と照応しているし、メチル化が行われなかった場合、同様のヒストンに他の修飾が起こる。同様に、クロマチンの構造と制御機能を持ったノンコーディング小分子RNAのある種のものの存在、その活動とのあいだにも相互作用が認められる。

訳注1)増殖細胞が増殖刺激を受けると、「DNA複製」により細胞内のDNA量が2倍になり、「細胞分裂」の過程で均等に染色体が分配され、2つの娘細胞を形成する。この現象は周期的に起こることから「細胞周期」と呼ばれ、G1期→S期→G2期→M期の4つのステージを1方向のサイクルで進んでいると考えられている。  この細胞周期の進行を担っているものがCdkサイクリン依存性キナーゼ)と呼ばれるリン酸化酵素タンパク質で、周期を通じて安定的に存在をしているのだが、リン酸化活性は周期の進行に伴い変化する。このリン酸化活性の制御をサイクリンというタンパク質が行っており、サイクリンがCdkに結合することでリン酸化能が活性化され、周期を進行させている。  細胞周期が進行する上で細胞外からのストレス(紫外線・発ガン剤など)によりDNAが損傷してしまうと、一旦DNAを修復するためG1期で停止する。これをG1チェックポイントといい、細胞周期のブレーキ役であるCdk阻害因子CKI)というタンパク質がCdkもしくはCdkーサイクリン複合体に結合し周期の停止に関わっている。細胞周期の異常により起こる疾患の代表的なものにガンがあるが、ガン細胞の多くはG1チェックポイントの異常が大きく関わっている。 細胞周期チェックポイントの異常はがん細胞にしばしば 認められる.サイクリン依存性キナーゼの阻害遺伝子であ る p16/CDKN2A や p15/CDKN2B は,しばしばがんにお いて DNA メチル化により不活化されている

訳注2)オペロン説においては、プロモーター、オペレーターと対に並んでいるのが示されているが、これは原核生物においてのみである。大腸菌のラクトースオペロンの転写制御においてオペレーターはリプレッサーと結合している限りはRNAポリメラーゼがプロモーターと結合していても転写は阻害される。ラクトースがオペレーターと結合して転写が起こる仕掛けになっている。真核生物も含め広義には調節エレメント(ということばで調節領域の総体が言い表される)とコアプロモーターを含めてプロモーターと呼ぶことがある。またエンハンサーは遺伝子の上流、下流(遺伝子の近傍にあるコントロール領域からは何十キロ塩基も離れた部位に存在することもある)あるいは遺伝子内に存在しアクティベーターやリプレッサーという配列特異的に結合するタンパク_質が作用することで働きが促進されたり抑制されたりするとされる。この辺は用語上統一されていないようである。

訳注3)メッセージと原文にはあるが、コードと言うべきであろう。Dictonnaire historique de la langue francais(le Robert)においては、(codeという語は)まず法律用語として「法集」、「規則集」の語義をもつものへ転用され(???)英文においては、サイバネティックス、情報理論において、さらに生物学領域で(遺伝学において)用いられるようになる。その場合、codeはsystemeの類語であり、systeme の所産たるmessageと対比される。DNAに記載されているものがタンパクに翻訳されるまでの過程がmessegeといえよう。

訳注4)https://ja.wikipedia.org/wiki/トランスポゾン参照のこと

訳注5)https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒストン参照のこと


2019.06.04 NEW!

『精神神経学雑誌』,2019, VOL.,121, NO4の「精神医学のフロンティア」のジャンルに 「統合失調症と双極性障害における共通のDNAメチル化変化」, pp.251-258というタイトルのエピジェネティック関連の論文が投稿されていました。

本論文は統合失調症についての先行研究注1)で同定されたいわゆるメチローム上(MWAS :Methylome-wide association studyというコホート研究-GWAS注2)に準じて作成途上にある-を参照としている)の上位5ヶ所の候補領域のCpG(シトシンとグアニンのリン酸を介したエステル結合)のシトシンのメチル化について、統合失調症と遺伝、環境要因を共有するとされる双極性障害の患者血液内諸細胞におけるDNAのメチル化を前処置を加えた後、次世代シークエンサーで解析した(一部追試)、新規のものとしてはマーモセット注3)にリスペリドンを投与し、この投与前と投与後とでDNAメチル化の違いを比較)ものである。遺伝子修飾という点においていわゆるエピジェネティックス領域における研究である。
精神科疾患の遺伝、環境要因は多くの場合多因性であり、これらのもののうちに本論文にも出てくる記述通り、交絡因子も含まれていることは容易に想像できることもあることから、この領域での研究は身体疾患の幾つかのものと比べるとはるかに複合的は困難を極めたものと察する。残念ながらDNAのメチル化が転写抑制に働くとして、当該の領域の「どういう表現型の発現の抑制として働くのか」に関しての言及は限定的であり(FAM63Bという遺伝子における低メチル化がドパミン遺伝子の発現や神経分化にかかわるmicroRNAに調整されるネットワークの一部とされるとされる文献を引用するに止まっている)、同領域がどこまでpathogenicな部分とかかわっているのか、pathoplasticな部分とかかわっているのかの記述も見出せない。DNAをメチル化するものとして酵素DNMTがあるが、この点に関しても触れていない。evidentなだけでなく、例えばこれからの展望などという題目を設け、少しでも仮説的なものが欲しかった。

精神医学におけるエピジェネティックス関連の研究はまだ揺籃期にあるといえましょう。極めて専門的な丁寧仕事であり、良心的な基礎研究に専念してい著者の方たちの今後のご活躍に期待いたしたい。

注1) Methylome-wide association study of schizophrenia_, Aberg. K. A., et al

注2) 6,000人以上のコホートについての遺伝子変種

注3) cf. https://ja.wikipedia.org/wiki/コモンマーモセット。肝心のコミュニケーションについての部分が英文のままで和訳されていない。大意はこうである(下線部分、)。コモンマーモセット同士は、音声や相貌表出によってコミュニケーションがなされており、警告のシグナル、攻撃性を他のマーモセットに示すことにより、服従に至らせて集団統率が行われている。一夫一婦制をとることがあることから、パートナーの顔を識別できる(これは本当であろうか。プレーリーハリネズミも一夫一婦制が支配的だとされるが、そこにはオキシトシン、バソプレッシン-いわゆるフェロモンとして働く-の効果によるとするのが大勢である)とされることと、音声認識(スタッカートとかハイー・ピッチド、トリルとかいった用語が通用しているのはマーモセットの生態についての研究の第一人者が音楽好きなためか)に特徴がある、が、マウスに替わりスタンダードな実験動物となりうるのか。マウスと違い入手するのがより困難であろうし、コストがかかることも難点なのではないか。ヒトの自然言語(論理学的にいえば、高階述語論理を扱うことができるが、一方で論理的でないものも含まれている。例えばフランス語で、条件法は高階であるとして、虚辞のne : Je desire qu’il ne vienneは「かれが来ることを望む」とも「かれが来ないことを望む」とのあいだのアンビヴァレントな発言である)とその他動物における言語もどきとの比較(人間の言語は、嘘をつくことができるという特徴を持っている。であるからひとは不在についても語れるし、小説を書くこともできる)、動物における生殖と人間における性愛(本質的に倒錯的である)との逕庭を共通認識としておかねばならないでしょう。

増殖細胞が増殖刺激を受けると、「DNA複製」により細胞内のDNA量が2倍になり、「細胞分裂」の過程で均等に染色体が分配され、2つの娘細胞を形成します。この現象は周期的に起こることから「細胞周期」と呼ばれ、G1期→S期→G2期→M期の4つのステージを1方向のサイクルで進んでいると考えられています。
 この細胞周期の進行を担っているものがCdkサイクリン依存性キナーゼ)と呼ばれるリン酸化酵素タンパク質で、周期を通じて安定的に存在をしているのですが、リン酸化活性は周期の進行に伴い変化します。このリン酸化活性の制御をサイクリンというタンパク質が行っており、サイクリンがCdkに結合することでリン酸化能が活性化され、周期を進行させています。
 細胞周期が進行する上で細胞外からのストレス(UV・発ガン剤など)によりDNAが損傷してしまうと、一旦DNAを修復するためG1期で停止します。これをG1チェックポイントといい、細胞周期のブレーキ役であるCdk阻害因子CKI)というタンパク質がCdkもしくはCdkーサイクリン複合体に結合し周期の停止に関わっています。細胞周期の異常により起こる疾患の代表的なものにガンがありますが、ガン細胞の多くはG1チェックポイントの異常が大きく関わっています。

細胞周期チェックポイントの異常はがん細胞にしばしば 認められる.サイクリン依存性キナーゼの阻害遺伝子であ る p16/CDKN2A や p15/CDKN2B は,しばしばがんにお いて DNA メチル化により不活化されている

MDS, アザシチジン, DNA高メチル化を正常化(仲野徹、p.136-7)

イルミナ社、Human Methylation 450 K array(ビーズチップ)

5-ヒドロキシメチルシトシン(5-mCから産生される)https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890094/data/index.html

BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)について, BDNF遺伝子Exon 1のプロモーター上のCpGアイランドのメチル化解析https://shingi.jst.go.jp/past_abst/abst/p/11/1128/hiroshima8.pdf

マーモセット
Common marmosets employ a number of vocal and visual communications. To signal alarm, aggression, and submission, marmosets use the "partial open mouth stare," "frown," and "slit-stare", respectively. To display fear or submission, marmosets flatten their ear-tufts close to their heads.[21] Marmosets have two alarm calls: a series of repeating calls that get higher with each call, known as "staccatos"; and short trickling calls given either intermittently or repeatedly. These are called "tsiks". Marmoset alarm calls tend to be short and high-pitched.[24] Marmosets monitor and locate group members with vibrato-like low-pitched generic calls called "trills".[29] Marmosets also employ "phees" which are whistle-like generic calls. These serve to attract mates, keep groups together, defend territories, and locate missing group members.[29] Marmosets will use scent gland on their chests and anogenital regions to mark objects. These are meant to communicate social and reproductive status.[21]

(google)コモンマーモセットは多くのボーカルとビジュアルコミュニケーションを採用しています。 警報、攻撃性、および服従を知らせるために、マーモセットはそれぞれ「部分的に開いた口の凝視」、「しかめ面」および「スリットの凝視」を使用します。 恐怖や服従を示すために、マーモセットは耳の房を頭の近くに平らにします[21]。 マーモセットには2つのアラーム呼び出しがあります。各呼び出しごとに高くなる一連の繰り返し呼び出し。「staccatos」と呼ばれます。 間欠的または繰り返しの短い細流通話。 これらは「tsik」と呼ばれます。 マーモセット警報通話は短くて高音になる傾向があります。 マーモセットは、「トリル」と呼ばれるビブラートのような低音の一般的な電話でグループのメンバーを監視および特定します。 マーモセットはまた笛のような一般的な呼び出しである "phees"を採用しています。 これらは仲間を引き付け、グループをまとめ、領土を守り、行方不明のグループメンバーを見つけるのに役立ちます[29]。 マーモセットは胸や肛門性器に香りの腺を使って物に印を付けます。 これらは社会的および生殖の地位を伝えるためのものです[21]。

(excite)共通のキヌザルは多くの声およびビジュアルな通信を使用する。アラーム、侵略、および提出を信号で伝えるために、キヌザルは、「部分的な開いている口凝視、」「しかめ面、」、および「裂け目凝視」をそれぞれ使う。恐怖または提出を表示するために、キヌザルは、それらのheads.[21]キヌザルに近いそれらの耳ふさをならす 2回のアラーム呼び出しを持っている :個々の呼び出しによってより高くなる一連の反復呼び出し、「断奏」として知られている;そして、間欠的に、または繰り返し与えられたしたたり呼び出しを短絡させなさい。これらは「tsiks」と呼ばれる。キヌザルアラーム呼び出しは傾向があり 短いおよび 口笛似の一般的な呼び出しである「phees」も雇用する 、high-pitched.[24]キヌザルは、「震え声」.[29]キヌザルと呼ばれるビブラート似の低い一般的な呼び出しによってグループメンバーを監視し、突き止める。これらは、連れ合いを引き付けるのに役立ち、グループを一緒に保持し、領域を防御し、行方不明のグループmembers.[29]キヌザルを突き止めなさい オブジェクトをマークするために、それらの胸および肛門性器の領域の香り腺を使用する 。これらが社会的で、生殖のstatus.[21]を伝達することは意図されている。

(2019.06.04)


2018.03.17

「ラカン勉強会」に、「68 年5月」の出来事についてかれが認めた未公開の文書を試訳として載せましたが、その「解題に代えて」と題した拙稿は、継続中のR.S.I.とは異なり、一般向けのものとしてこの「トピックス」にも載せました。「68 年5月」は今年で50 周年を迎え、フランスでは各種の刊行物が発刊されています。日本も同時期、全共闘のニュースがマスコミを賑わせました。特に東大安田講堂の事件はTV でリアル・タイムに放映され、視聴率は50 パーセント近くまで上ったものと記憶しています。いま全共闘世代の方たち(わたしはこの世代より年弱ですが)は、もう現役を離れ、ある意味で抵抗感を示さず当時についてカミング・アウトできるようになってきています。YOU TUBE (https://www.youtube.com/watch?v=Q5qq0jW1yTE)をご覧になってください。わたしは医学生になったばかりで、当然精神科医となる前の出来事でしたが、赤レンガ闘争と重ね併せるかたちで、成人を迎える前後の時期に強烈なインパクトを与えられました。
50 年前といえばひと昔でしょうが、けっして遠い昔ではありません。この間わが国も世界も様変わりしました。では50 年先はどうなるでしょう。温故知新という四文字熟語は最近見掛けなくなりました。「一寸先は闇」のはずなのにいくらなんでも歴史の終焉とかイデオロギーの終焉はおかしい。こんなのに騙されはしまい。語順を逆にして「終焉というイデオロギー」の時代にわれわれは生きているのだと単純に図式化していた時期もありましたが、少し軌道修正して「勝負は下駄を履いた後にひっくり返されることもある」ぐらいにしておきます。「68 年5月」は暫くは「五月革命」で通っていましたが今は「革命」ではなく「異議申し立て」だと。しかし何に対する異議申し立てなのかはまだ総括できていないのです。

ラカン、「改革の落とし穴」解題に代えてPDFPDF.195KB

(2018.03.17)


2017.06.26

ADHDの患者さんの来院数がどんどん増えてきています。かなり以前のことになりますが、「成人期ADHDについて」の注3)で強調しましたADHDイコール遺伝性の障害というレッテルに対するアンチ・テーゼとしての環境因子の重要性についてですが、今般日本精神神経学会におけるマウントサイナイ医科大学の森下博文さまとジョンズホプキング大学の石塚公子さまの発表を聞きまさに我が意を得たりと膝を叩きました。特に森下先生の発表は臨界期critical periodeの異常あるいは臨界期における環境因子の重要性が説かれており、悪しき環境が神経網の発達に悪影響を及ぼすことがエビデンスとして述べられていました。お二人ともいわゆるポスト・ゲノム、遺伝子宿命論に対するエピジェネティックスの領域の先端的研究に従事していらっしゃいます。環境因子についていえば、これはそれぞれの患者さんが異なる環境のもとに育ってきたわけですから、ステレオタイプな対応では絶対だめなはずです。薬物の種類には限りがありますし、薬物療法にのみ重点を置く治療ではお話になりません。ある程度の類型化は必要でしょうが、いわゆるオーダー・メイドのサポートにつきます。改めて申上げますが、生活習慣の改善、トレーニング(こちらこそオーダー・メイドが最適です)をないがしろにしては絶対だめです。
(2017.06.26)


現在、安西 愈著「労働者の過失相殺」(労働調査会刊)という本を読んでいます。事例が豊富でほとんどが労働災害のケースですが、参考になる記述が多く、日頃当医が思うことも重ねてここに認めます。
労災とか民事訴訟とかは自分には縁がないものとほとんどの方は仰るでしょう。当医に受診なさる患者さんにおいてもその様なケースは寧ろ例外的です。
説明の順序としてまず申上げとくべきことは、最近はまっとうな会社ですと、人事労務担当者は安全配慮義務、不当行為(前者は債務不履行に関連する民法大418条によって規定されるなど、法解釈適用についての違いについて著者の安西弁護士による説明があります)についてきわめてセンシティヴになってきているという事実です。危険業務におけるいわゆるクラシカルな労災は注意していればある程度は目に留まり予防できるのだが、メンタル失調は見えないので怖いと仰る人事労務担当者の方が多いです。
一方で、少子化により生産年齢人口減少により、当然ながら相対的に一人の勤労者の仕事の負荷は増えていく傾向にあります。当医に来院する患者さんのなかにも過重労働が発病の重要な要因となっている方は依然として多いです。労働基準法の一部修正等の国会審議も継続審議のままです。60時間という数字がどこから出てきたのか判りませんが、一人歩きしそうです(労働安全衛生法では単独月100時間、複数月6ヶ月間において加重平均して80時間以上云々となっているのでバランスを取って60時間なのでしょうか。時間外手当についての除外対象を外すことについては納得なのですが)。基準法現法36条(これも改正に次ぐ改正で追記の方が多くなっています)では一応45時間という数字が節目となっていますが、特に建設セクター等から月60時間(720時間、単独月100時間がリミット)でもやってられないとの声が上がっていることからも継続審議のままなのでしょう。
無病息災という言葉がありますが、昨今では「一病息災」の方が幅を利かせています。時間外/月100時間以上で無病である人を小生は「病的に健康な人」と呼んでいますがこれは例外です。病気でも今のペースの時間外ならなんとかやって行けるとお思いであればこれは一病息災の範疇に入るでしょう。しかしこのままでは倒れること必至だが、周囲も遅くまで残って仕事をしているので自分だけ早く帰るわけにはいかない。「上司からは早く帰るように言われている」が、そうすると仕事がどんどん溜まってしまうと仰る方が非常に多い。
この上司の言葉「早く帰るように」は安全配慮義務が働いているのです。係争、事件に至らなくとも、過重労働等が背景にあり病気で倒れ療養のため出勤ができなくとすれば、その方が過失の被害者といえるでしょうが、上司の言葉に従わずにですとこの病気を悪化させたという過失に一部加担していると看成されてもしょうがありません。
繰返し申上げますが、過失相殺とは労災認定された事例等での民事賠償に関係して来る用語で、裁判所の職権事項となるものですが、会社の人事労務はこれを想定して安全配慮義務についてセンシティヴになっているのであり、健康管理上の責任の所在(病気に罹患したとして、大多数が私病扱いになるでしょうが、それでも就業上の悪影響でそうなったと考えられる場合、これを会社側に報告することは会社側の安全配慮に応えていることになります)を明確にすることになります。 実際加重労働等がもとで療養が長引き復帰できずに退職を通知され、その後も稼働能力が不十分で障害認定も下ったことで会社側の賠償責任が問われたが、原告側も病状について十分会社側に説明できていなかったことにより何十パーセントか過失相殺された事例もあります。このような係争に至った事例は単にモデルケースとして参考にすればよいだけで、過失相殺というものを尺度として、勤労者の健康管理上での応分の自己管理責任というものを意識していただくために一 筆認めた次第です。
あと一言、就業規則はことあるごとに読むようにしましょう。冊子としてお持ちでない方は、会社に一部プリント・アウトしてもらいご自宅に保管しておいてください。
ご自身の病気を会社側に告知するとなると、個人情報の開示に伴う不利益を怖れていらっしゃる方が多勢です。これまたデリケートな問題で、稿を改めて認めることにします。
(2017.06.26)


知人や患者さんから、『トピックス』『ラカン勉強会』、『院長の部屋』がどういうカテゴリーで分類され既述されているのか不得要領ではないかとご批判が有りましたので、ここで説明をして整理いたしたいと思います。
ラカン研究会は発表したものをホーム・ページの左側のコラムにその都度追加してきましたが、この枠が手狭となり『院長の部屋』へ移すことになりました。最新のラカン関係の記事は『院長の部屋』で読むことができますが、ラカン以外のものも時々認めることになります。
『トピックス』にはいろいろ書きたいことがあるにはありましたがアップすることなくさぼっていました。すいません。今回アップしたもの以外にもで患者さんのためになるニュース(テーマは医療に限りません)を中心に書いて行きます。
(2017.06.26)


2016.09.12

先回の日本ラカン協会のワークショップのテーマが4(+1)のディスクールでしたので、少なからずインスパイアされ、特にニコラ・ダジャンさんが発表なさった主人のディスクールと資本家のディスクールとの関係には大いに考えさせられ、今でも疑問はつきません。だいいち今現在資本家とはどういう人を指すのか? 日本語では自己資本、他人資本(フランス語ではそれぞれ、lepassif, l’actifです)とバランス・シートで分けられていますが、両言語どちらを取っても騙されているみたいです。このうち他人資本に相当する債券の市場は自己資本である株式の市場と比べても桁違いに規模が大きく、ジャンク債に関係してCDSなんていう「こんなのありか」、みたいな商品も現れてきていて、それが暴落することをおそれているのかどうか判りませんが、日米欧の中央銀行による量的緩和合戦(なのか協調なのか?)にマルクスどころかラカンもこれを知ったら、まったく言うこと書くことが違ってきたのではという時代になってきています。社会全体としては脱産業化は ダニエル・ベルの言っていたのとはまた違った趣を呈していて、むしろディミトロフ・テーゼのような金融資本の一般的(という部分がいまいち曖昧なのですが)危機に対する反動としてのファシズム台頭を予感させる時代になってきてます。フロン・ナショナルはファシスト党、ナチ(双方ともいうなれば中道)とは異なり自称極右ですが、構造的には似ています。ウーエルベックの「服従」がベスト・セラーになっているように、少なくともヨーロッパでは移民問題も絡んで複雑な様相を呈していると言っていいでしょう。スタンディングの書いた「プレカリアート」(副題が「新たな危険な階級」となっています)のオリジナルのカヴァーはどうみても日本の若者にみえてきます。経済格差は先進国新興国ともに共通の問題で、よく中間層の没落と説明されますが、この中間層とフランス語classe moyenneとはまったく違うもので、本当に階級と呼べるものなのかクエッションマークです。

『人は資本主義に享ずることができるのか』(原題Peut-on jouir du capitalisme ?)、第2部、試訳ですが、上記と関連したテーマを扱っています。ラカン論としてはやや破天荒なスタイルですし、言っていることに小首を傾げたくなる部分も多々ありますが、タイムリーではないかと思いアップいたしました。
院長の部屋

サイトリニューアルに際しての院長の挨拶(2016.06.13)

今般、荻本医院のwebサイトをリニューアルいたしました。
体裁だけでなくコンテンツもよりアクチュアルなテーマに即して更新してゆきます。

院長としては、ADHDについて、成人期ADHDだけでなく、子どものADHDについても視野に入れてコメントしてゆきます。今回はラカンとの関わりからアニエス・コンダの論文のレヴューをアップいたしました。
ADHDは今後、診断分類上どのような扱いになるのか計り知れませんが、少なくともDSM-5では(神経)発達障害の下位分類となっており、それでは自閉症(スペクトラム)との異同も問題として行かねばならないでしょう。自閉症については、Lefort夫妻による「‹他者›の誕生」以降のラカニアンたちの研究も追いながら、ラカン独特の表現、‹他者›、ジュイッサンス、対象(a)等との絡みでその構造を明らかにして行かねばならないでしょう。

昨年12月よりストレス・チェック制度がスタートしました。産業医活動の一環として、取り組むべきことも増えてきていますが、この領域での当医の活動についての記述がHPにおいて欠落しています。こちらも当医にとっての課題であることは意識しています。

スタッフとしてАмосенок Ирина Николаевнаが新たに加わりました。彼女の自己紹介は「荻本医院のスタッフの欄に」ロシア語で書かれています。下に日本語があります。

院長雑感

しばらく荻本医院のwebサイトのリニューアルを怠ってきました。この間、メンタル系医療の流れに対して小生が関わってきたことを少しずつ発表してゆくつもりです。まずは「成人期ADHD」について、一定の間隔をたもちながら今まで胸三寸で口にしなかった事柄をお伝えすることにします。
DSM-5がADHDを「神経発達障害」のカテゴリー内に加えたことが契機といってよいでしょう。以前からADHDのケースとは関わってきましたが、この1~2年で受診数は激増しましたし、これからもこれは変わりないものと確信しています。自閉症(スペクトラム)についてはラカニアンの文献も豊富ですし、臨床的なものから理論中心のものまで、かなり前から眼を通してきましたので、これらも併せて小生なりの視点から紹介してゆくつもりです。

この他、昨年12月にスタートしたストレス・チェック制度についてもいろいろな角度で関わりつつありますので、これは別枠で発表してゆく方針です。いわゆるメンタル不全と労働問題との関係は依然として医療の枠を超えて説明する必要がありますので、これも折に触れて認めたものを発表してゆきます。

医薬品については小生が治療経験として比較的豊富なものは、MRの方たちからの情報は重視するとして、しかしながらこれらの情報がバイアスとなりうることを踏まえて、寸評程度にですが、小まめに私見を「胸の内を明かす」式にぽつりぽつりと呟いてゆきます。

ラカンについては当医院でのセミナー、協会で、サークルでの発表の下敷きとなったものをそのまま載せてきましたが、下敷きである以上、文章として欠陥だらけですが、これは敢えて訂正しないままにしておきます。おことわりしておかなくてはならないこととして、小生はラカニアンですが、精神分析は実施いたしません。この理由についてもなにか纏めて説明しなくてはならないでしょう。

この文が荻本医院のwebサイトに関して小生が怠惰であったことの懺悔録ではないかとお叱りを受けることとなるかもしれませんが、これからの償いによってこれを斟酌いただきたいと存じます。

人事・労務ご担当者様でメンタルヘルス顧問医をお探しの方へ

従業員の休職や復職に関するメンタルヘルス問題でお困りの企業の方より、認定産業医で専門医との顧問医契約を結ぶケースが増えております。
また、平成23年から職場検診にうつ病などの精神疾患をチェックする項目が盛り込まれる動きがあります。企業は、これまで以上にメンタルヘルスの専門家との連携が必要になってくると考えられます。

官・民および企業規模を問わず、うつ病や適応障害による休職者数は急増しており、人事担当者だけで解決することが困難なケースも少なくありません。
お困りの際は、どうぞ当院へご相談ください。
(2011/2/25)


ラカンの勉強会はLes non-dupes errentを一通り解説しましたので小休止です。10/31(日本ラカン協会のワーク・ショップでの発表を終えましたので、暫くは小生のペースで、少し自由な感じで、ブログ上にいろいろアップして行きたいと思っています。

まず、日本ラカン協会の雑誌I.R.S., no9/10 に投稿しました『Sexuationの式―Le savoir du psychanalyste の1972年6月1日のアントゥルティアンを中心に』に校正ミスがあり、朱をいれてSexuation の式に載せました。

また次号のI.R.S.に掲載予定の『ラカンと三値論理』も前稿の続きみたいなものですので、先行してラカンと三値論理に載せました。


東京精神分析サークルで昨秋発表しましたsublimationとsublimeとの関係についてはまだ纏められないままになっていますが、そのうち発表いたします。ラカンは実詞としてsublime(ドイツ語 das Erhabene)を、小生の知る限り、使っていませんが、例えばLyotard の≪Lecons sur l’Analytique du sublime≫ にはラカンからの引用もありますし、いわゆるjouissance de la Chose(これまたラカン自身はこの語を用いたことがないのではないでしょうか)との絡みでセミネール7巻や16巻D’un Autre a l’autre の読解とともになんらかのものを認める予定です。

目下読んでいるのはErik PorgeのLes Noms du Pere chez Jacques Lacanで、RSI と併せ読みとして、これも発表する予定です。


最近、スペクトラムという語が流行りともいっていいのではないでしょうか。自閉症スペクトラムに続き双極性感情障害についてもスペクトラムとして捉える精神科医が増えています。ere 社から刊行されているfigure de la psychanalyseの最近出た特集Le ≪bipolaire≫ et la psychanalyseを購入し、少し読んでみましたが、著者(KristevaやGerard Pommierの名前が見られます)のなかには、精神分析とまったく関わりのないChristian Gayみたいな精神科医も投稿しています。因にかれのタイトルはHeterogeneite des troubles bipolairesでアンチ・スペクトラム論者です。


双極性感情障害に関しては、このような水掛け論的な論争はさておいて、キンドリングという現象に着目しています。そのうち、簡単に纏めてみます。