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『メランコリー論』(1961)

Hunbertus Tellenbaca : Melancholie - Problemgeschichte, Endogenität, Typologie, Pathogenese, Klinik(メランコリー - プロブレマティーク、内因性という概念、類型、病因論、臨床)というタイトルでSpringer Verlagから上梓され、その第三版(1976年)が木村敏によって翻訳され、みすず書房から1978年に出版され、当時は精神科医のあいだでベストセラーとなったものです。日本人はなににつけアナロジーでものごとを捉える傾向があります。
テレンバッハが記述している症例は女性が多く、「引っ越し」が状況因となっているものがかなりの割合を占め、これを日本人男性で中間管理職クラスの人が、病前性格でもあるメランコリー型が仕事上プラスの評価として認められ昇格し、それが状況因として発病する、といったアナロジーが働いていたと思います。

当時、日本人でドイツに家族とともに駐在する機会があった高校時代の同級生から聞いた話です。
ドイツ人の家庭に招かれ、たまたまその日本人の奥さんが日本料理を作り方を披露する機会があり、ドイツ人の奥さんがどうするかというと、日本人の奥さんが醤油やみりんをつかうわけですが、一寸床にこぼしたりしますと、すぐさまドイツ人の奥さんは雑巾で拭くのです(けっして厭味でそうするのではありません。きれい好き、整頓好きなのですが、ここまで行くとメランコリー型を通り越して強迫的という言葉の方がぴったりだと思うのですが … )。同じような内容のはなしを別の高校時代の同級生から聞きました。
ですからテレンバッハの本を読む前は、ドイツ人の女性は家事だけで頭がいっぱいなのだと勘違いしていました。テレンバッハの症例の多くは、夫の収入だけでは家計が成り立たず、家事も徹底してやるがその上アルバイトでもこき使われ、さらに国民性として共通しているのですが、倹約家です。ですから念願かなって「新居に転居できる」こととなり、これが状況因として働くのです。「新しい家なのだからきれいにしなくっちゃ」、「家計もたいへんだし」と先取りして発病するのです。日本人男性のメランコリー型のうつ病の場合、「昇格させてもらったんだからいままで以上に仕事をやらなくては」、「いままでの同僚が部下になるのだから責任重大だ」と先取りで発病しました。しかしアナロジーはある点までは有効かもしれませんが差異を意識するといった批判精神が欠けていては駄目でしょう。
まず症状レヴェルでは、テレンバッハが記述しているものと当時日本で典型的なメランコリー型と看做されたごく一般的な症例とではかなり隔たりがありました。当時の裕福とはいえない家庭を切り盛りするドイツ人主婦と中間管理職クラスの日本人男性とでは精神生理的次元(後述するIrina Antonijevicの論文にも性差という生物学的 - ジェンダーとはまったく関係がありません - 相違による罹患率を根拠づける他の研究者の論文の引用がいくつか認められます。昔ながらの二卵性双生児の男女児のケースの研究などにも言及しています)でもそうですが、社会的なステータスは比較できないものがあったでしょう。さらに当時と較べると、今日、日本もドイツも国を取り巻く状況は様変わりしています。強調したいのは、何らかの国際基準(例えばICD, DSM)は準拠するものとして必要でしょうが、日本という国、日本人という諸人種、民族というものと欧米諸国において、それぞれの地域に住まう多種多様な人種、民族そしてこれを規定している文化との差異をもっと重視すべきです。他の分野でも同じでしょうが、国別比較が医療という分野において(医療の制度上の問題、経済的問題をも含めてです)ますますおろそかになってきています。情報化社会といわれながら、この点での情報は、結果としてかなりセンサーがかかったものとなってきています。