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患者様の最初におっしゃる訴え

ともあれ、当院を受診なさり社会/社交不安障害と診断のもとに治療を続けている/いた患者さんの主訴(患者さんが医療機関を訪れて最初におっしゃる訴えです)を以下に列挙いたします。

・人前で緊張して、「顔がこわばる」「足が震える」「声が震える」「うまく喋れない」「逃げ出したくなる」」(実際、オフィスで、緊張した場面で耐えられなくなり、トイレに駆け込むことが多い)」「急に汗が出てきて止まらなくなってしまう」
・記帳するとき手が震えて字が乱れてしまう
職場で電話をとるのがおそろしい、「○○株式会社、△△部 ??? のXXでございます」と言おうとするが、声が震えてしまう、息が詰まってしまう、等々
・大勢のひとがいるなかなどで、「嘔吐してしまうのでは」「下痢になってしまうのでは」「失禁してしまうのでは」等々
・「トラウマとなっていることが影響して…」

 人前でスピーチするに及んで不安/恐怖(どちらの語を採用したらよいのか日本語でも迷います)を感ずるとしても、SADの患者さんがもっとも怖れるのは、見知らぬ大勢の人たちの前でスピーチするときです。対人恐怖の患者さんは、むしろ、(かならずしも大勢ではない)ある程度見識のある人たちの前でスピーチするときです。あるいは結婚式のスピーチでは、あらたまった雰囲気のなかで主賓、来賓としてスピーチする方が苦手であるSAD、場が和んできたとき当意即妙が要求される友人代表のスピーチが苦手な対人恐怖といったニュアンスの違いです。
 個人と共同体との関係に置き換えると一目瞭然です。SADの患者さんが怖れるのは、寄る辺なさであり、一方対人恐怖の患者さんでは村八分です。
1980年代西谷修さんによって相次いで翻訳された「明かしえぬ共同体」(ブランショ)、「無為の共同体」(ナンシー)はハイデガーの共(-)存在を意識して書かれていることは明らかです。あるいはホロコースト以後の"他者"、"他者"の死を語るのヨーロッパ人の問題意識とわれわれ日本人における身内における"他者"性の深刻さとどちらがより根源的なのかといった問い - この対比には1996に上梓された『他者なき思想』の小生の日頃の臨床より得られたアンチ・テーゼがこめられていますが - とするとあまりにも抽象的でこのページには相応しくないものでしょうが、「人間関係で悩みがある」と訴えられる方たちの最大公約数的な言辞としてご理解いただきたいと存じます。もちろんみなさんにはみなさんの"他者"がいて、これに苦しめられているわけですから、それぞれ日常的な言葉でそこらへんのお話をお伺いしますし、それを分析いたします。

 日本においても対人恐怖の数は減り、社会/社交不安障害が増加しています。この微妙な変化、移行そのものがいまこの国の病(やまい)そのものの徴候なのです。それぞれが語り口が違うわけですから、教科書的、プログラム化された治療は最終的には失敗に終わります。月並みですが「ゆっくりとした対話」を重んじましょう。
なお、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)はSADには有効ですが、対人恐怖にはあまり効果がありません。